弱小ベンチャー奮闘記

「寄付で黒字化」大作戦|前編

「アプリ開発で生きていきたい」

ある日、その気持ちが制御不能になった凡人は、会社をやめて独立することにしました。

突然の相談で上司を困らせる凡人

しかし、そんな無計画な凡人は、いきなり問題に直面します。
彼には生きていくための算段がなかったのです。

誰も残念じゃない道

凡人は既に、個人開発で習慣化アプリを公開していました。
しかし彼は、収益化についてよく考えていませんでした。

「アプリ開発で生きていくには、どうすればいいんだ」
慌てて調査すると、一般的な方法はすぐ見つかります。

しかし凡人は妙にこだわりが強く、納得できません。
「課金はダメだ。お金を払わなくても、全力のアプリにしたいから」
「広告もやめておこう。前向きにがんばる人の意識を奪っちゃうから」

応援したい人だけ

このままでは収入源がゼロになってしまいます。
そんな時、ある一つの考えを思いつきます。
「応援してくれる人にだけ、寄付してもらう」

「おお、これはいい気がするぞ!」
「誰も残念な思いをせず、私は好きなアプリ開発を続けられる」
それは名案に思えました。

凡人は早速、準備をはじめます。
お金を扱うシステムは複雑で、思っていた以上に時間がかかりつつも、やがてなんとかアプリで寄付を扱えるようになりました。
慎重に動作確認をすると、いよいよ寄付機能を入れたアップデート版を App Store で公開します。

凡人はドキドキしながら反応を待ちました。

公開後の現実

数日後。
ようやく集計された初日のデータを、凡人はおそるおそる見てみます。

するとなんと!
公開初日、3人も寄付してくれていました。
次の日は、4人です。

「おお! ありがたい!! これはどうにかなるかもしれない!」
凡人は狂喜乱舞します。

しかし、現実はそんなに甘くはありません。
寄付の件数は数日だけ増えると、すぐに減っていきました。
やがて、寄付者0人の日が続きます。

公開後の寄付数

こうなったのには、理由がありました。

現実はビギナーズラックの後に

寄付機能をアップデートで公開した時点で、凡人のアプリは数万人にダウンロードされていました。
そのため、多くの人が一斉に「開発者が寄付を募りはじめた」と知り、そのうち数名が寄付してくれたのです。

しかし一度、その後はそうはいきません。
ほとんどの方は「寄付しない」と判断した訳で、それを変えるのは容易ではありません。
(その判断は当然で、もちろん全く悪いことではありません。むしろ数人でも、「見ず知らずのアプリ開発者に寄付する」という方がいたことが、奇跡のようなものでした)

最初にたくさんの方が寄付をしてくれたのは、一度だけ起こるビギナーズラックのようなもの。
それがひと段落してから、現実との勝負は始まるのでした。

学生ユーザー

また、当時、凡人のアプリのユーザーの多くは学生でした。
課金しなくても全てを使えるアプリは、学生に強く支持されたためです。

そのため、このような声をもらうことがありました。

学生ユーザーの声

「おお、ありがたいなあ」
そんな温かい言葉は、凡人を大いに勇気づけました。

しかしそこには、同時に試練もありました。
学生ユーザーには普通、寄付をするなど余裕ないのです。

そのため学生ユーザーの多い凡人のアプリは、ユーザー数や評価の割に、寄付額が伸びづらい構造にありました。

1年目、赤字

そんな状況もあって寄付額はなかなか伸びず、挑戦1年目は赤字で終わります。

凡人は別にいただいた仕事によって、アプリ事業の赤字を補填します。
それはとても幸運で、ありがたい仕事でした。
しかし凡人には、やはりこんな気持ちもありました。

「でも、アプリ開発でやっていきたい」

起死回生の作戦

初年を赤字で終えた凡人は、思いました。
「ちょっとやみくも過ぎたな。もっと論理的に考えてみよう」

食らえ、ロジカルシンキング!

論理的に思考する凡人

寄付の総額 = A [ユーザー数] × B [ユーザーあたりの寄付額]

「よって、寄付が増えるパターンは2通りしかない!」
A. ユーザー数が増える
B. 一人当たりの寄付額が増える

凡人は当たり前のことを、大発見のように考えました。

「だが、私にBの道はない!」
凡人はいきなり可能性の半分を捨てました。

「学生がメインだし、あんまり寄付してもらうのも悪いからなあ」
理由は、極めて感情的なものでした。

そこまで考えると突然、凡人は「よし」と結論を出しました。
「とにかく、ものすごくいいアプリを作ろう」

根拠はふわふわしていました。
「そうすれば、きっとアプリは広めてもらえるだろう! ほら、SNSとかあるし、時代も時代だし(?)」

思考プロセスはとくに論理的ではありませんでしたが、ともかくこの考えによって、凡人の問題は一つに集約されました。
「とにかく、ものすごくいいアプリを作る」

作戦実行

凡人は作戦を決行します。

アプリを使ってくれた方の話を細かく掘り下げて聞き、集まったデータを分析し、三日坊主の性質について理解を深めていきます。
とにかく「アプリを使ってくれた人が成果を得られるように」と、できることを端からおこない 、アップデートを続けました。

「いいアプリ」はそんなに簡単には作れません (くわしくはこちら) が、それでも試行錯誤を重ねていくうちに、アプリは少しずつよくなっていきます。

もちろんその間にも赤字は続きます。
2年目、赤字。
3年目、赤字。

しかし少しずつ、アプリを使ってくれる方は増えました。
そして本当に、寄付の件数も増えていきました。

全く収益性は改善しないが、ユーザー数増加のみに頼って伸びる寄付件数

まだまだ黒字化には遠いものの、着実に好転していく状況を見て、徐々に凡人は思い始めます。

「どうにかなるかもしれない」

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