そう遠くない昔、一人の凡人がいました。
凡人は「なんかクリエイティブで楽しそう」という浅はかな理由で、広告会社に入社します。
そこで与えられた仕事は「データ分析」。
それが何かは分かりませんでしたが、仕事の名前がカッコよかったので、凡人は喜びました。

「人間のリアルな心理」 を目にし続ける
データ分析は、ウェブサイトやアプリの改善に役立ちます。
たとえば「アプリのユーザー登録をしている人が少ない」というデータからは、「登録が面倒くさい」といった人間の心理を考察することができます。
機械に「面倒くさい」といった感情は理解できないので、データから意味を見出すには、人間が人間の感情を理解しなければなりません。
(凡人はデータ分析を「大量のデータを処理する機械的な作業」かと思っていましたが、実際は人間らしい感情に向き合い続ける血の通った活動でした)

データ分析の実務を通じ、凡人は「人間のリアルな心理」を何度も目にします。
自分に利益があることでも、ちょっと「面倒だな」と思ったら行動しない。
丁寧に説明すればするほど、理解していないことに気付いて不安になる。
こうした人間の心理は、凡人が考えていたよりも遥かに繊細なものでした。
データ分析を使って何かできないか
ようやく仕事にも慣れ始めた頃、凡人は考えました。
データ分析は、人間の根幹に迫る技術ではないだろうか。
これを使って、何かすごいことはできないだろうか。
何かこう、人生そのものに重大な変化を起こすようなことが。
そこで思いついたのが、「三日坊主を克服するアプリ」でした。

凡人は趣味でアプリ開発をしていました。
そこにデータ分析の技術を取り入れれば、「三日坊主になる心理」を正確に理解できそうです。
そして「行動できる方法」をアプリのデザインとして組み込む。
そうすれば、たくさんの人が三日坊主を克服できるのではないか。
毎日毎日行動を繰り返していれば、必ず大きな変化が現れる。
だから「三日坊主を克服するアプリ」は、とても意義あるものに違いない。
凡人はそう考えました。
驚くほどに上手くいかない
しかし実際にやってみると、全く上手くいきません。

まず、「高すぎる目標を掲げるから失敗する」と考え、「簡単な目標を1つしか設定できない」というデザインにしました。
するとこれが、驚くほどの不評。
その意図は全く伝わらず、「1つしか目標を登録できないなんて、技術力を疑う」と言われる始末。
頼みの綱であるデータ分析も全く活かせません。
大企業のサービスと違ってユーザーが少なく、データが集まらなかったからです。
唯一の武器も使えず、凡人は無力でした。
当然ながら、「三日坊主を克服した」という成果も、ユーザーからのポジティブな反応もほとんどありません。
「意義のあることをしている」という実感が、全く得られない状態です。
それでも継続
しかし、それでも凡人は改善を続けました。
「継続アプリを作る努力すら継続できない」という屈辱を回避するために必死です。

このアプリを知らない友人に使ってもらって、「初めて使った人」の反応を観察しました。
「目標が一つしか設定できない」仕様への困惑が何度も見受けられました。
「使ってしばらく経った人」の話も聞けるだけ聞きました。
「行動を続けるモチベーションはやがて必ず弱くなる」という当然の事実を、目標を立てる時はみんな無視してしまうことが分かりました。
継続や習慣に関する本や記事、研究成果にも目を通しました。
習慣化にかかる日数は目標の高さによって変わり、簡単な目標なら短期間で済むという研究結果を見つけました。
こうして少しずつアプリを使う人への理解を深め、デザインを修正していきました。
少しずつ成果が出る
地道に改善を続けていくと、やがて App Store に一つのコメントが投稿されます。
「3日坊主を本当に救ってくれた」

それは、初めて活動が実を結んだことを示していました。
凡人はとても喜びました。
そして、より一層の改善に励みます。
「継続できた」という声は一件、また一件と増え、やがて評判によってユーザーが増え始めました。
ユーザーが増えると、データも溜まり始めます。
ついに、データ分析の本領発揮です。
「続く人の行動」の分析に取り掛かり、「週5回より毎日の目標の方が続く」などの傾向を見出しました。
直感で答えの出せないような問題にも、答えられるようになります。
「サボり続けると最初からやり直し」というルールはあった方がいい、という結論が導き出されました。
ユーザーの声、響く
そうして、アプリは少しずつユーザーの役に立てるものになりました。
ユーザーからは「アプリを作ってくれてありがとう」という感謝の声が、繰り返し寄せられます。
その一つ一つが、凡人に響きました。

一つ一つの声が、「ようやく、価値あることができるようになってきた」と凡人に実感させました。
その実感はやがて「この活動を中心に生きていきたい」という気持ちを生みます。
繰り返し届くユーザーの声は、日増しに気持ちを強めていきました。
そしてある日、凡人は決意します。
広告会社を退社し、アプリ開発会社 bondavi を立ち上げました。
その後と今後
「継続する技術」はその後も改善を続け、年々ユーザーが増え続けています。
Appleの「今日のAPP」選出や「anan」「STORY」など雑誌での紹介などもあり、少しずつ評価してくれる人たちも増えてきました。

考えに共感してくれる、心強い仲間もできました。
でもまだまだ、アプリを使ってくれたのに挫折に終わってしまう人がいます。
アプリに期待してくれた人を、がっかりさせてしまうことがあります。
これは bondavi の力不足に他ならず、まだまだ改善が必要です。
主観に捉われて事実を見失うことなく冷静に、数字に捉われて人間らしさを見失うことなく心豊かに、もっともっと深く人間を理解していかなければなりません。
まだまだ、やることは山積みです。