そんな訳で、「とにかくいいアプリを作る」作戦を続けているうちに、少しずつ事業は黒字化へ向かっていました。
しかし4年目にさしかかった頃、異変が起きます。
アプリを使ってくれる人が、これまでのように増えなくなってきたのです。
「アプリに何か問題があるのでは」
凡人は調べてみます。
しかし、何も問題はなさそうです。
それどころか、むしろ作り込んだアプリはすごく高く評価されていました。
「......あ」
その時、凡人は問題に気付きました。
「自然に広まる」 の限界
当時、人々が凡人のアプリを知るきっかけは、ほとんどが App Store の検索でした。
App Store で「習慣化」などと検索し、出てきたのでダウンロードする、という形です。
ありがたいことに凡人のアプリは、たくさんの方が高評価してくれました。
その結果、App
Storeに「いいアプリだ」と認識され、「習慣化」などと検索した時に1番上にヒットするようになっていました。
しかし当然ながら、1番上にヒットした後は、その上はありません。
そうやって認知が広がるのには、限界があるのでした。
広告が出せない
そこで重要なのが、広告です。
「SNSやYouTubeにアプリの広告を出して、知ってもらう」
というのは、ダウンロード数を伸ばす鉄則。
これは一般的に、「検索で知る」ルートの何倍もの効果を発揮します。
もちろん広告を出すにはお金がかかりますが、「儲かるアプリ」を運営していれば問題ありません。
アプリを使う人が増えれば、課金などでお金が入り、回収できるからです。
そうして、このような好循環が生まれます。
- ユーザーが増える
- 収益が増える
- そのお金で広告を出す
- もっとユーザーが増える
しかし困ったことに、凡人のアプリではそれができませんでした。
寄付しか収益源のないアプリは、常識では考えられないほど収益性が低く、広告費が回収できないのです。
「儲からないアプリ」に、好循環は生まれないのでした。
無名のベンチャーを
そんな問題に気付き、途方に暮れていた頃のことです。
凡人の会社に、一通のメールが届きます。
アプリ「集中」について記事化したく、連絡させていただきました。
こちらのwebメディアで、集中力に悩むビジネスパーソンに「集中」を紹介しつつ、開発の裏側を明かす記事を掲載できればと思っております。
「ん?」
「......何い!?」
世の中には「お金を払ってプロモーションしてもらう」という取引だけでなく、「興味を持ってくれたメディアの方が活動を取り上げてくれる」ということもあるのでした。
「テレビに取り上げられて売上アップ」
凡人もそんな話は聞いたことがありましたが、まさかこんな無名のベンチャーを取り上げてくれる方がいるとは思っておらず、驚きます。
メディア
そしてありがたいことに、それから少しずつですが、bondavi を取り上げてくれるメディアの方は増えていきました。
それは急激なダウンロード増加をもたらしたりはしませんでしたが、確実な変化を生みました。
一つは、それまで接点のなかった方に知ってもらえたこと。
「App
Storeで検索してアプリを探す」習慣のある方以外が、記事を見ることでアプリを知ってくれました。
もう一つは、信用が生まれたことです。
それまで bondavi
は、社会的信用が全くと言っていいほどありませんでした。
いくらいいアプリを作っていても、「全く聞いたことのないベンチャー企業」に寄付するというのは、普通は抵抗があります。
それがメディアの方が取り上げてくれたことによって、信頼感が高まっていったのでした。
大勝負
そんなありがたすぎる流れを受けて、凡人は勝負に出ます。
アプリ事業の赤字を補填していた大きな仕事をやめ、その時間をアプリ開発に集中することにしたのです。
しかし、これは大きな間違いでした。
数日も経った頃には、もう凡人は後悔していました。
当然ながら、退路を絶ったところで、寄付は急に増えたりしません。
刻まれつづける赤字額。
減っていく口座残高。
少しでも時間が空くと、不安で頭がいっぱいになります。
凡人は、不安というものを甘く見ていました。
刻一刻と悲惨な結末が迫りくる不安は、思っていたよりもずっとずっと大きな力で、凡人の精神を削っていきました。
しかし他にできることもない凡人は、アプリを作り続けるしかありません。
5年目も、赤字に終わります。
やがて気付くと凡人は、あまり財務状況を確認しなくなっていました。
赤字という現実を思い知らされると、心が折れてしまうためです。
月日が流れるうちに
「流石にそろそろまずいかな」
ある日、凡人は久しぶりに寄付額を確認してみました。
「ん?」
何故か、寄付額が思っていたよりもすこし増えています。
偶然かもしれませんが、凡人は喜びました。
またしばらく経つと、今度は寄付額がさらに増えていました。
「え? なんで...?」
凡人には、思いつく理由はありませんでした。
ダウンロード数を確認してみても、特に大きく増えてはいません。
そんな中、寄付者に回答してもらっているアンケートを見ると、あるコメントがありました。
「まさか......」
凡人は数年ぶりに、アプリの利用者の年齢層を確認しました。
すると明らかに、社会人のユーザーが増えていました。
凡人が奮闘しているうちに月日は流れ、当初学生だったユーザーの一部が、社会人になっていたのでした。
そして「社会人になったら寄付をする」を、本当に実行してくれた方がいたのです。
それだけではありません。
社会人となったユーザーの方の口コミは、周りの社会人にも届くようになっていました。
それによって社会人ユーザーは増え、寄付額は増加していたのでした。
そして「寄付だけで黒字化」挑戦から7年目、2023年。
bondavi株式会社のアプリ開発事業は、出費額を寄付による収益額が上回りました。
「寄付で黒字化」、達成です。
その後
bondavi は現在も、広告や寄付以外の課金制限なしでアプリを提供しています。
まだまだ吹けば飛ぶような弱小企業ではあるものの、その後も温かいユーザーの方々に支えられ、なんとか活動を続けられています。
世の中には、心温かい方もいらっしゃるみたいです。