アプリ 「集中」 開発秘話

堕落したくない論

会社を辞め、アプリ開発ベンチャーを立ち上げた頃のことです。

凡人は悩んでいました。

悩む凡人 (bondavi 代表)

「アプリ開発で生きていこう」 と一念発起したばかりの今、私はやる気で溢れている。
しかし、この凡庸で意志の弱い自分が、「ちゃんと仕事しろ」 と檄をとばしてくれる上司もいない環境で、何年もしっかりと仕事への集中力を保てるだろうか。
いや、保てない。

「絵が上手くなりたい」 とイラストの練習を始めては飽き、
「文章が書いてみたい」 とブログを立ち上げては潰してきた凡人は、
自分の意志の弱さを侮ってはならない、と考えていました。

そして、一つの結論にたどりつきます。

「放っておけば、確実に自分は堕落してしまう。せっかく立ち上げた会社も潰れてしまう」

起業直後、早くも人生の分岐点に立たされた凡人は考えました。

「凡人でも堕落しないで済む、具体的な何かが必要だ」
「そう、意志の強さとは無関係に、何年経ってもやる気と集中力を保てるような何かが」

しばらく考えた後、凡人は思いました。

「そういうアプリを作ろう。アプリ開発会社なのだから」

とりあえず作る

早速、試作版の開発に取りかかりました。

まずは研究です。
仕事への集中力を保ち続けるには、どうしたらいいか。
考えを巡らし、ヒントになりそうな書籍や論文を読み続けました。

その結果、何やら 「時間」 がキーワードらしいことが分かりました。
例えば、このように。

・人間の脳には「1日6時間までしか集中できない」といった限界がある
・「6時間」 のような限界に個人差はあるが、限界が存在しない人はいない
・間に休憩を挟むことで、限界を長くすることができる

そこから、アプリの方針を立てました。

・毎日の作業時間がすぐ分かり、自分の限界を把握できるアプリ
・休憩しようと思わなくても、使っていると自然に休憩がとれるアプリ

作り始めた時のアイデアと仮デザイン

作っては壊し、作っては壊し、何度も試行錯誤をした後に、ようやく試作版が完成します。

自ら試作版を使ってみて、凡人は喜びました。
アプリを使うと、明らかに以前よりも集中できるようになったためです。

「これは思いのほか、いいものができたかもしれない」
と、凡人は少し誇らしい気持ちになりました。

公開。後悔。

「せっかく作ったのだから」 と、凡人は試作したアプリを公開しました。

「どんな反応があるだろう。もしかすると今回は、いきなり高評価かもしれないぞ」
と、期待に胸を膨らませ、ユーザーの反応を待ちました。

そして、一通のメールが届きました。

「……え?」

凡人の期待とは裏腹に、実際に届いたのは酷評でした。

いや、きっとたまたま厳しめな方からメールが届いただけに違いない。
目の前の現実を受け入れられない凡人は、さらに待つことにしました。

そこには、もはや否定のしようのない事実がありました。

「このアプリは、全く人の役に立てていない」
「それどころか、ユーザーを困惑させただけだ」

期待が大きかっただけに、凡人は大きくへこみます。

受け入れざるを得ない現実はどこまでも厳しく、ここまで酷評が続く理由も分からず、凡人は途方に暮れました。

酷評の原因

凡人はしばらく現実に打ちひしがれた後、
「起業直後にいきなり現実逃避では、会社がつぶれてしまう」
と、不評の原因について考えることにしました。

ユーザーの言葉を見ていくと、
「どう操作するのかよく分からない」 「何に役立つのかよく分からない」
といったように、「よく分からない」 という点が共通していました。

これらの声から、凡人は一つの結論にたどりつきます。

「意図が伝わっていないんだ」

凡人は 「集中する」 ということについて時間をかけて考え、多くの書籍や論文を読んでいました。
しかし、当然ながらユーザーの大半は、そんなことをしていません。

そのため、アプリの

・タイマーで時間を短く区切って、こまめな休憩を促す
・作業時間を毎回表示する

という機能に、どんな意味があるか知る由もありません。

困惑するユーザー

この 「使う人の立場を考えていないこと」 が、酷評の原因に思われました。

そこで凡人は、今度はちゃんとユーザーの立場に立って、意識的に 「人の役に立つ」 アプリを作ろう、と考えを改めました。

「人の役に立つ」 を具体的に

広告会社時代、 「データ分析」 の仕事をしていた凡人には、
「曖昧な表現を見ると、具体的な言葉に変えたくなる」
という、奇妙な癖がありました。

その癖は、一つの疑問を生じさせます。

「『このアプリが人の役に立つ』とは、具体的にどういうことだろうか」

凡人は考えました。

何も迷わず、直感的にアプリが使えること?
いや、違う。
直感的なだけでは役に立ったとは言えない。

集中できるようになること?
うーむ。近いけど、少し違う気がする。
人が本当に求めているのは、「集中」 それ自体ではなく、きっとその先にある何かだ。

何だろう。
その先にある、何か。

……結果?

そうだ、結果だ。
例えば学生なら、アプリを使うだけで 「成績が上がる」 といった、結果。
それこそが人の求めているもので、「結果」 が得られるアプリになったら、「人の役に立った」 と言えそうだ。

こうして、「結果」 がこのアプリの大きな開発テーマとなりました。

使う人の心の理解を試みる

「人の役に立つ」 アプリのため、ユーザーの話を聞くことにした凡人は、人間への理解の浅さを痛感しました。

例えば、「休憩をとろう」 と言っただけでは、人は休憩をとりません。
その背景には、このような心理があります。

休憩をとるべき時間になっても 「キリがいいところまでやろう」 と思う
「休憩」 と言われても、具体的に何をすればいいか分からない
オフィスや図書館では、周りの目が気になる
そんな繊細な人間の心理を考慮せず、
「休憩は、多くの研究で効果が証明されています。休みましょう」
などと言うだけのアプリが人の役に立てないのは、当然でした。

考えの甘さを痛感した凡人は、アプリのアップデートを重ねました

休憩に強く意識が向くよう、通知が何度も届く (かつ、不快にならないように)
状況に合わせた 「休み方」 が、具体的に示される
このような試行錯誤を重ねて、アプリは少しずつ、人の心理を汲んだものになっていきました。

アップデートを重ねるに連れ、口コミで広がっていった

そして3年以上の改善を続けた後の2021年、目標にしていた 「結果」 が得られるアプリになったのかを把握するべく、アンケートを実施。
結果は、80%以上が「成績アップ (学生) 」「生産性アップを実感 (社会人) 」。

これは、凡人が目指していた大きな目標の達成を意味していました。

追求した 「結果」 以上のもの

ようやく 「結果」 についてある程度達成できた頃、凡人は予想外のことが起きていると気づきました。

「このアプリを使ってから、勉強が楽しくなった」
という声が、続々とユーザーから届くようになっていたのです。

実際に届いたユーザーの声

何度も何度も届くユーザーの声は、凡人を考えさせました。

「これは、ずっと目指していた『結果』以上に価値のあるものかもしれない」

誰かに言われて仕方なく机に向かうのではなく、「学ぶことが楽しい」 という自らの気持ちをもって学ぶということ。
それは、その人の人生に純粋な好奇心を、生きた知識を、枯渇しない充実感をもたらし続ける、価値ある姿勢であるはず。

もちろん、社会人についても同じです。

bondaviの理念は、
「特別じゃない毎日を、少しずつ豊かに」 。

たとえ今日が、念願の受験合格の日でなくても、長年の目標を達成した日でなくても、
「学ぶのが楽しい」 「仕事が楽しい」
といった気持ちは、その日を豊かにしてくれるに違いありません。

その気持ちはまさに、bondavi が目指していること、そのものでした。

凡人は思いました。
「もしbondaviのアプリにそういった気持ちを引き出す力があるのなら、一人でも多くに使ってほしい」

その後

ユーザーの声から始まったそのささやかな願いは、bondaviに新たな試みを始めさせました。

2022年5月。
bondavi は、アプリ 「集中」 を法人に対しても無償提供する旨を発表しました。
現在、教育機関を中心に、導入が進んでいます。

「集中」 は、個人利用・法人利用ともに、広告なしで無償提供しています。

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