エロ動画を探す時間と、これからの人生について

数ヶ月前、昼休みに会社の後輩とうどんを食べていた時のことだ。

私が勤めているのは「デジタルの力で世の中を良くしていく会社」で、(たぶん)
私はそういうことがしたいと思っているし、後輩も同じ想いを持っていた。(きっと)
そこで、私は当時考えていた革命のアイデアを語った。

概要はこうだ。

革命のアイデア

問題

エロ動画を探すことには時間がかかりすぎる。

巨乳や人妻など、大きく括りやすい情報は既に分類が成されている。
しかし、「女性が上に乗って手をつく」といった、詳細かつ名称不明瞭な情報を指定しての検索に関しては、未だ実用化されているサービスは存在しない。

こんなに細かい情報の指定は必要ないという反論もあるだろう。
しかし、誰しもが持っているであろう自分の中の殿堂入り動画を考えてほしい。
通信の不具合に備え、ローカルに保存している人も多いはずだ。(ちなみに Mac ユーザーであれば、アプリケーションフォルダに拡張子 “.app” をつけたファイル内に保存することで、普通にクリックしても開かないが、右クリックから「パッケージの内容を表示」で閲覧可能となる。プライバシーと利便性を高い水準で両立できるので、ぜひ試してほしい。私は “Eternity.app” というフェイクファイルを作っている)

そういった殿堂入り動画を俯瞰して見てみると、通常のタグのみでは追い切れない詳細なレベルでの共通点があることに気づくはずだ。
我々が真に求めているのは、そういった次元のことなのだ。

そこで私は、動画と人間の嗜好の両サイドを機械によって解析し、好みの動画のみを表示してくれる機能はどうかと提案した。

動画解析

現状では巨乳や人妻などのタグを各動画に振る作業は、「これは巨乳だな。へへへ・・・」とか「こいつは人妻だ。じゅるり・・・」とか言いながら、人間が行っている。(恐らく)
その作業を機械に代替させる。
動画を連続する画像として画像認識技術で解析し、同じ傾向の動きや構図を括り出す。

動画解析の精度と解析対象動画のサンプル数が十分であれば、「女性が上に乗って手をつく」といった情報も取得できるはずだ。

そうして各動画の特徴を把握した後は、人間の好みを把握する。

嗜好解析

「巨乳の女性が上に乗って手をついており、ナース服だとさらに好印象(必ずしも痴女とは限らない)」という好みの人間がいたとする。(というか、私だ)
その好みを「巨乳」「女性が上に乗って手をつく」「ナース服」に要素分解し、動画解析で抽出した情報と照らし合わせ、好みの動画を紹介する訳だが、その前にユーザーの好みを機械が理解しなければならない。

動画側の情報については、動画ファイルそのものを解析するのに対し、人間の好みを把握するのは、アクセス解析。
動画毎のページ閲覧数、動画視聴時間、スキップ時間、再訪頻度、時間あたりに開いた動画ページの数等を総合的に解析し、ユーザーの好みを抽出する。
さらに、新しい世界への可能性を閉ざさないために、同じ傾向の好みの持つ別ユーザーが好んだ別情報、突然変異的な全く新しいジャンルの情報を一定の頻度で表示。

このような仕組みで、我々人類はエロ動画を探す時間を最小化しつつ、より好みに近いエロ動画にたどり着くことができる。
これが私の考えだった。

話をうどんは汁を吸って伸び始めていた。

私がしようとしていたこと

後輩はうどんをすすりながら、静かに話を聞いていた。

彼は心の底からエロ動画を愛している。
普段とてもクールで穏やかなその目に、エロ動画関連の話題の時だけは強い意志が滲み出す。
彼は、そういう男だ。

エロ動画界に革命を起こすこのアイデアは、彼の目を輝かせるに違いない。
私はそう確信していた。

彼は穏やかな笑みを浮かべたまま、まっすぐな目で私を見て言った。

 

「エロ動画探す時間、楽しくないですか?」

 

私はハッとした。

彼にとってエロ動画を探すことは、旅だったんだ。

その時間を満たす、未知への希望、繰り返される絶望、醜さへの嫌悪感、やがて辿り着く真の興奮。

そして、そういう類のものが折り合って生まれる、形容しがたい幸福。

「世界を良くする」と言いながら私が目指していたものは、誰かが愛する大切なものを奪うことだった。

目の前にいる人が何を考えていて、何を美しいと感じて、何を求めているのか理解しようともせず、自分の短い人生で形作られた短絡的で形式的な「幸せ」を押し付けようとしていた。

その人の愛を無視していた。

幸せを奪おうとしていた。

 

私は変わろうと思った。

誰かを理解したいと思った。

繰り返す過ち

この話から時間が経って、私は同じ過ちを繰り返し、最愛の人を失った。

私は彼女を理解しようとしていたし、そうしているものだと信じていた。

でも、きっとそれは酷く表面的なものだったんだ。

私は、何も変わっていなかった。

一度にいくつものタブを開き、数秒見ては数分スキップする作業を繰り返す人間のままだった。

大切な人が話してくれる美しさを理解しようとせず、自分と異なるものを無視し続ける人間のままだった。

傷つけて、傷ついて、信じられないくらいに醜い自分の姿を見てしまって、また傷つけて、傷ついて、ズタズタになって。

 

その中で気付いた。

大切な何かを、大切な誰かを、愛することのできる人間になりたい。

自分と異なるものを理解しようとして、そこで初めて目にする美しさに触れて、自分の中に存在していなかった何かを受け入れて。

同じように、自分の知っている美しさを誰かの深くにある部分に届けようとして。

そして、それまでそこになかった何かが生まれる。

 

きっとこういうことがしたいんだ。

だから、どんなに難しくても諦めてはいけないはずだ。

エロ動画を探すという旅を愛することを。

自分とは異なった大切な誰かを愛することを。

後ろを振り返らず、目の前の何かを、目の前の誰かを愛することを。

 

こんな綺麗事を少しずつ嘘じゃなくしていければ、とても素敵なことだと思う。

 

最後に、今回私を救ってくれた本を貼っておく。